いける日刊・たまたゆ新聞 の 2011 の 11月
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2011年11月

いける日刊のバックナンバー

奇跡の場所

「…いや、N君ね、年金や雇用、財政赤字の問題もそうだけど、ますます深刻化する高齢化社会に入った今、これからの日本は、労働力の低下と国内市場の縮小が避けられないと思うんだよね。やっぱり」
「…で、だね、我々のように内需のマーケットで戦っていかなくちゃならない国内の企業にとっては、本当に厳しい時代になると思うんだよ。ほんと。今のところは唯一の救いが円高だけど、結局はトヨタを筆頭に外需産業がこの国の経済を支えているわけだからね。急激な円高はノーサンキュー。根本的な景気回復には、なっかなかつながらない。でしょ。それにさ、この円高は世界の主要先進国で起こっている深刻な金融不安が原因でしょ。いま、日本政府が必死になって為替介入をしているけど日本の金融市場への影響を抑えきれるわけがないよね。そりゃあ、景気が上向かないのも当然だよ。で、そうやって足踏みしているうちに労働賃金が安く豊富な資源を所有している国は俄然有利な状況になるわけで、ここにきて軒並み原材料の高騰だ。そしたらどうなるよ?わかるよね?ますます、この国は八方ふさがりだ。そんな中でのアメリカ主導のTPPがなんたらかんたらで、どうたらこうたらだから…ふにゃららほにゃららで、はひふへほにゃらら…」

昼休み、老夫婦が切り盛りするめし屋では界隈のサラリーマンでごったがえしている。オレはかけ蕎麦をすすり、ひとまわり以上は上の大先輩は昼定食のみそ汁に手をのばしていた。

「…そりゃあさ、営業の言い分もわからないでもないんだけどさ、製造の生産能力以上のことを求めるのはどうかと思うんだよね」
「…だから、挨拶と身だしなみなんて基本中の基本でしょ。新人は特に。そう思わない?」

熱く語る大先輩の下唇とアゴのあいだには、みそ汁に入っていたであろう豆腐のかけらがついている。時折、気になるのか舌で探るも悲しいかな届かない絶妙な場所にいる豆腐のかけら。探れば探るほど奇跡の場所。

「おっ、もうこんな時間か。N君、そろそろ出ようか。…どうした??」
「いえ、なにも」

まぁ、生きてると、なんだかんだとあるんである。

2011年11月23日 11時10分 カテゴリー:「それでもドロップキック」

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