いける日刊・たまたゆ新聞 の 2011 の 3月
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2011年3月

いける日刊のバックナンバー

東京マラソン

東京マラソンゼッケン

東京マラソンゼッケン・撮影(た)

 一頻りして霞んでいた目の前が晴れた。
「た、たばこ…。をくれ」

2011年2月27日 日曜日 午前8時59分57秒 東京 晴れ

新宿の上空には何台ものヘリコプターがバタバタと気忙しく飛んでいる。この日の東京は、新宿から四ッ谷、水道橋、皇居を抜けて六本木の東京タワーを横目に品川、そして日比谷、銀座四丁目、日本橋から浅草。浅草からは東京スカイツリーが見える。最後に築地から豊洲、有明、ビッグサイトまでの全域とその周辺道路が封鎖され、国際都市としての機能が完全にマヒ、停止していると言ってもいい。そして、目の前の新宿、都庁周辺は今までに見たことがない物凄い能動的群衆が包囲している。

「3、2、1、0」

カウントダウンが終わったとき地響きのような喚声があがり、その先にある同じ場所に向かって血管に血が流れ込む。なぜ、僕がここにいるのかはわからない。ただ、皆が同じところに向かっていること。それを皆が知っていることはわかった。

2011年2月26日 土曜日

東京に入った僕は、品川駅から山手線大崎駅を経由して、りんかい線に乗り換えゼッケンの受け取りと最終エントリーに向かう。東京は明日の東京マラソン一色。街のいたるところにポスターが貼られ、「東京マラソンに出るのか?」と声をかけられる。どうやら標準語では話せていないらしい。道中の車内では、携帯電話を開け2、3日前からの僕が返信したメールの文章を見ていた。「ありがとう」という言葉を沢山文字にしていること、また声に出したことに気付きなんとなく照れくさくなった。ゼッケンの受け取り会場はビックサイト。人、人、人。一時間以上その長蛇の列を並んでJ42326の番号を手にした。

その後すぐに、代々木八幡へ向かった。十年近く会っていない恩師のもとへ行きたかった。不夜城新宿での夜、友人から受け取ったお守りを腰にあてることを決めた。初めての新幹線、初めての東京ディズニーランド、初めてのホテルでの宿泊に興奮した3歳の娘は疲れてぐっすり眠っている。7歳の娘はその興奮になかなか眠れないようだ。

2011年2月27日 日曜日 午前9時

スタートの興奮も覚めやらぬ中、喚声とともに皆が目指すべき先に向かって力強い足取りで、己のみに集中し勢い勇んで飛び出していく。歩行者天国と化した沿道では、おびただしい数の人と応援が止まない。でもその声は僕には聞こえてはいない。

2011年2月27日 日曜日 午後12時32分28秒

今や足も上がらなければ、腕も振れていない。変わらないのは、走っても走っても行き先が見えないこと。走っても走っても励ましの声、メッセージボードが絶えないこと。走っても走ってもなぜここにいるのかはわからないこと。東京がマヒしていること。変化していくことは、走れば走るほど壊れながら進み消耗していく自分と内に膨らむ矛盾の塊。一歩足を運ぶごとに「もう、歩こう」。それでも「足を止めない」。星の数ほどの人々の声が大きな音となって聞こえはじめていた。

2011年2月27日 日曜日 午後13時06分52秒

気付けば涙が止まらない。狭くなった視野に道端から投げられた文字が目に飛び込む。

「絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対にあきらめるな」「しんどいのは気のせいや」

しんどいのは気のせいや。本当はあきらめたくないのにあきらめようとするからしんどいんや。いっそのこと、あきらめることをあきらめたら楽になる。ぐっと黙って行かんかい。いつでも、ここにいてるやないか。僕には、はっきりとそんなふうに聞こえた気がした。

2011年2月27日 日曜日 午後14時01分13秒

家族が僕の名前を呼んでいる。目の前は霞んだまま見えない。何かわかったのか?何か見えたことはあったのか?結局、何もわからずじまいで42.195kmが終わった。なぜ、走ったのかもわからないまま東京マラソンが終わった。本当に不思議だったことは、苦しくないときには聞こえないのに、なぜか苦しい時に聞こえ、そして求めてしまう励ましの声。本当に苦しいと言ってしまうと消えてしまいそうな励ましの声のことだった。

「ほんまの友だちっちゅうのはな、自分がつらい目におうてるときには、親友に連絡せんもんや。」中島らも著「バンド・オブ・ザ・ナイト」の作中にあるそんな言葉を思い出しながら、一頻りして家族を前にするころ、霞んでいた目の前が晴れた。

2011年2月27日 日曜日 午後18時 番外

品川から新幹線に乗り込み、いざ大阪へ凱旋。弁当を買おうと思ったら手持ちの金が足りず2つの弁当を家族4人で食べなければならなかった。それでも、皆で笑った。

追伸:
本日はせっかくご来店いただきましたのに、自身初のフルマラソン挑戦の支離滅裂なレポートにお付き合いくだりましてありがとうございました。無茶と無計画はいけません。ご利用は計画的に。

2011年3月6日 10時03分 カテゴリー:「それでもドロップキック」

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